脳外傷・高次脳機能障害(2)

・脳外傷による高次脳機能障害といえるための目安

 自賠責保険においては、以下の各所見を総合的に検討して、脳外傷(ここでは「脳の

器質的損傷」を意味する)による高次脳機能障害であるかが判断されています。

 

・交通外傷による脳の受傷を裏づける画像検査結果があること

 

 ① 交通外傷による脳の受傷とは、外力作用に起因する脳の器質的病変が生じている

  ことをいいます。この点で、非器質性精神障害と自賠責保険で障害認定の対象とさ

  れる脳外傷による高次脳機能障害は峻別されるのであり、この認定のためには、画

  像所見が重視されます。

   器質的病変が生じていると認定するための画像所見については、以下の点に留意

  するべきです。

 

 ② CTやMRI画像での継時的観察による脳出血(硬膜下血腫、くも膜下出血など

  の存在とその量の増大)像や脳挫傷根の確認があれば、外傷に伴う脳損傷の存在が

  確認されやすいです。CTで所見を得られない患者について頭蓋内病変が疑われる

  場合は、受傷後早期にMRI(T2、FLAIRなど)を撮影することが望ましい

  とされ、平成23年報告書においては、受傷後2~3日以内にMRIの拡散強調画

  像DWIを撮影することができれば、微細な損傷を鋭敏に捉える可能性があること

  が指摘されています。

 

 ③ しかし、上記のような脳組織の形態や組織状態を撮影する検査方法では、DAI

  (びまん性軸索損傷)の発症を確認することは困難なことが多いとされています。

  なぜなら、DAIが、大脳白質部内部に張り巡らされた神経コードの広範な断線が

  推定される症状でありますが、神経コードそのものは、現在の画像技術では、撮影

  できないからです。

   そこで、事故後ある程度期間が経過した時点で、MRIやCT検査により脳室の

  拡大や脳全体の萎縮が確認されれば、神経コードの断線(軸索の組織の傷害)が生

  じたことを合理的に疑え、出血や脳挫傷の痕跡が乏しい場合であっても、DAI発

  症を肯定できるものとされ、自賠責保険の障害認定実務はこの考え方で運用されて

  います。

 

 ④ 最近、MRI,CT以外の手法により、脳外傷の発症を確認できるのではないか

  として、訴訟等における立証資料として、他の手法による画像検査結果が提出され

  る例も出てきています。しかしながら、以下の理由により、自賠責保険実務では、

  MRI,CTによる異常所見による存在を重視する方針は変更されていません。

   そもそも、画像は、大別して形態的異常を確認するためのものと、機能的異常を

  確認するものに区分されていますが、出血や脳挫傷の存在など形態的異常を撮影す

  るためには、MRIが優れています(事故直後の出血量などの推移を見極めるため

  には、迅速性の点でCTが優れています)。

   これに対し、豊富な脳内血流に着目してその血流量や放射性物質の代謝量の多寡

  を測定して、脳内エネルギーの活性の強弱を見る方法(画像上明るく輝いている箇

  所がそうではない箇所に比較して脳活動が活発である)が、いわゆる機能的異常を

  把握しようとする方法です。この方法としては、核医学が応用され、放射性同位元

  素(ラジオアイソトープ)を利用して、その原子核改変の際に生じる放射線を測定

  して脳内血流の活性程度を画像化する方法があります。

   ㋐ SPECT(単光子放射体断層CT)

   ㋑ PET(陽電子放射体断層撮影)

   これらの撮像機器(特にPET)は、放射性薬品(放射性マーカーという)、水、

  酵素、グルコース、アミノ酸などの体内代謝物質の働きを表す目印となるため、こ

  れを撮像することにより、生理的、薬理的、生化学的過程が三次元的に画像処理さ

  れます。

   このほかにも、脳の器質的損傷の存在を裏付けるとされる新しい画像検査手法も

  提案されています(拡散テンソルMRI、MRS等々)。しかしながら現在のとこ

  ろMRI,CTのほかは、外傷性の脳損傷の発見において、評価が固まっている状

  態のものはないといえます。「拡散テンソル画像(DTI)、fMRI、MRスペ

  クトロスコピー、PETについては、それらのみでは、脳損傷の有無、認知、行動

  面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない」と

  しています。

   しかしながら、これらの画像が神経軸索そのものを撮影しているのではなく、脳

  内の機能活性(どこの部位の脳機能が活性化しているか)について、一定の合理的

  推定ができる可能性はあっても、神経コードの断線を直接判断できるものではあり

  ません。

 

 ⑤ したがって、現在のところ、自賠責保険高次脳機能障害審査会での実務的処理と

  しては、MRI,CTによって確認される異常所見をもって、脳の器質的損傷の有

  無を判断する取り扱いが継続されています。

   今後、検査機器のより一層の精度の向上や新たな医学的事実の発見、ないし脳研

  究の進歩があれば、高次脳機能障害としての器質的病変が今よりも容易、且つ確実

  に認定されるものと考えられます。 

                                     以上

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